SHOEN

50周年記念公演


『わが町』のこと

 舞台スタッフや俳優として活躍する一部のOBを除き、ほとんどのOBにとっては久し振りの芝居づくりとなります。キャストもスタッフも何10年ぶりの経験です。ワクワクする気持ちとともにさまざまな不安も広がります。いったいどこで、どんな芝居をすればいいのか。観客は呼べるのだろうか———。

 まず何をやるかです。50年目にふさわしい芝居とは何なのか……? あるOBから提示され、意見交換の末に決定した上演台本がソーントン・ワイルダー作『わが町』です。

 ソーントン・ワイルダーはアメリカを代表する劇作家、小説家として活躍し、本作でピュリッツァー賞も受賞しています。『わが町』は1938年、ニューヨークで初演の幕を明けて以来、今日まで世界各地の劇場で上演されている、まさに世界中で愛されている作品です。お話は難しくありません。ニューハンプシャー州の小さな町で起こる普通の人々の普通の生活を描いた3幕からなる物語。第1幕はその町に暮らすジョージとエミリーの二家族を中心に「日常生活」が描かれます。そして第2幕「恋愛と結婚」ではこの二人の結婚式の一日が描かれ、第3幕ではエミリーの死と死後の世界が描かれます。

 この戯曲の特徴的なところは何もない舞台上に舞台監督が物語を断片化し進行していくことです。アメリカの片田舎の物語でありながら、観る者ひとりひとりの「わが町」が心の中に再構築されていきます。そして大事件が起こることもなく、淡々と進んでいく物語を観ていくうちに、「われわれが存在すること」の意味が心の中に浮かび上がってくるのです。

 しょうえんにはすでに故人となったOBが少なからずいますが、彼らはしょうえんの中で生き続けています。私たちは生と死を超えてしょうえんに関わったすべての人たちと共に『わが町』の舞台を創りあげたいと考えます。そして、「存在すること」の喜びや切なさや愛おしさを、観客と共に感じられる舞台を創りあげたいと願っています。